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孫 建軍「第2回アジア未来会議円卓会議『これからの日本研究:学術共同体の夢に向かって』実施報告書 」

本円卓会議は、漢字圏を中心としたアジア各地の日本研究機関に所属する研究者が集まり、グローバル時代における日本研究のあり方について議論する場として、第1回に引き続き、第2回アジア未来会議の二日目に開催された。会議は日本語で行われ、円卓を囲んだ10名の発表者と討論者、および各地から駆けつけた多くのオブザーバーが参加した。

 

円卓会議は2部からなり、前半は提案の代読及び指定発表者の報告であった。提案者である早稲田大学劉傑教授は都合で来場できなかったが、提案は文章として寄せられ、司会者の桜美林大学李恩民教授によって代読された。内容は主に四つの部分からなり、(1)未来に向けての「東アジア学術共同体」の意味、(2)「東アジア学術共同体」の実験として、「日本研究」を設定することの意味、(3)アジアないし世界が共有できる「日本研究」とはどのようなものなのか、そして(4)東アジアの日本研究の仕組みをどのように構築していくのか、というものだった。

 

続いて、4人の指定報告者による報告が行なわれ、日本を除く東アジア地域の代表的な日本研究所の歴史や活動などの最新情報が紹介された。ソウル大学日本研究所の南基正副教授は、当研究所で展開中のHK企画研究の紹介を通じた企業との連携の実績や、次世代研究者の養成に力を入れていることを紹介した。復旦大学日本研究所の徐静波教授は、日本の総領事館や企業の支援を受けることは、レベルの高い日本研究を維持していく重要な前提であると語った。中国社会科学院日本研究所の張建立副研究員からは、中国一を誇る研究陣営、政府のシンクタンクの役割を十分果たす国家レベルの研究所の紹介があった。台湾大学の辻本雅史教授は、発足したばかりの台湾大学文学院日本研究センターを紹介し諸機関との連携を呼びかけた。

 

後半は北京大学准教授で早稲田大学孔子学院長を兼任している私の司会で始まり、6名の指定討論者からコメントがあった。中国社会科学院文学研究所の趙京華研究員は日本研究の厳しい現状を報告した上で、学術共同体という言葉遣いに疑問を投げかけた。学術共同体を目指すのではなく、東アジア各国の間における軽蔑感情を取り除くべく、問題意識の共有を提案した。また、他者を意識させかねないことを防ぐため、他分野の学者も討論に呼ぶべきだと提案した。北京大学外国語学院の王京副教授も、学術共同体は外部が必要なため派閥が生まれやすいと指摘した。また、統合されていない北京大学における日本研究の現状を例に挙げ、情報共有の大切さを訴えた。

 

韓国国民大学日本研究所の李元徳教授は学術共同体を目指す提案者の意見に賛同する一方、日中韓の間における独自の問題を指摘した。また衰退しつつある韓国の日本研究は、魅力をなくしつつある日本に起因することを慨嘆した。ジャーナリストの川崎剛氏は東アジアの概論の必要性を訴えた。SGRA今西淳子代表は、関口グローバル研究会として組織ではなく人の繋がりを心がけ、小さいながらも大きな組織の間を繋ぐ触媒的な存在でありたいと説明した。「学術共同体」については、中国大陸の学者の反対的意見を尊重し、使用を控えたほうがよいと語った。一方で、提案者劉傑教授の意図は既にある情報インフラをもっと活用できないかという観点からであると補足説明し、相互情報交換に力を入れる意向を明らかにした。また日本は魅力をなくしたとは言い切れないと指摘した。中国社会科学院文学研究所の董炳月研究員は、学術から出発して国家概念を超えた協力関係の構築を提案した。最後に台湾中央研究院の林泉忠副研究員は日本研究の厳しい現状の再確認を促し、一刻も早く苦境の脱出を図らなければならないと指摘した。

 

円卓会議にはアジアのほかの地域の学者も参加し、タイ、インドなどからの学者の発言もあった。話題は日本研究のみではなく、各大学の教育現場における新しい動向や悩みにまで及び、予定時刻を若干オーバーして有意義な意見交換を行った。今までの2回の議論を踏まえて、多くの参加者は、第3回アジア未来会議の場においても、引き続きこのようなセッションを設けてほしいと望んでいる。

 

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<孫建軍 Sun Jianjun>
1969年生まれ。1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。現在早稲田大学社会科学学術院客員准教授、早稲田大学孔子学院中国側院長を兼任中。専門は日本語学、近代日中語彙交流史。
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2014年10月15日配信